福岡県出身イギリス在住ライター ブレイディみかこさんの『僕はイエローでホワイトで、ちょっとブルー』を読みました。
みかこさんは、イギリス南端にあるブライトンという街に20年以上住んでいて、イギリス人の旦那さんと中学生の息子さんの3人暮らしです。
息子さんが小学生の時、通っていたのは、市のランキングで常にトップの名門カトリックの学校で生徒会長も務めていた優秀なお子さんです。
裕福な家庭の子どもたちの中で平和に過ごしてきたその息子さんが、進学した中学校は地域の「元底辺中学校」。
殺伐とした英国社会を反映するリアルな学校。
いじめもレイシズム(人種主義=人種間に根本的な優劣の差異があり、優等人種が劣等人種を支配するのは当然であるという思想)も喧嘩もある世界。
眉毛のないコワモテのお兄ちゃんやケバい化粧で場末のママみたいになったお姉ちゃんもいる学校。
差別や格差で複雑な友人関係。
直面する息子さんとともにその現実を、ありのままに中学生の日常として描いた本なのです。
正直、ドラマを見ているかのように、面白くてグイグイ引き込まれて読みました。
現実であるだけに、ドラマよりすごいと言えます。
今のイギリスってこんなに大変なんだと全然知りませんでした。
改めて、日本って恵まれているなぁとつくづく感じました。
恵まれすぎていて恵まれていることに気づいていなかったです。
私のように、「知らない」人がほとんどだと思うので、ぜひ紹介したいです。
現在のイギリスの状態
私は、「揺りかごから墓場まで」で有名な福祉政策を打った労働党政権のイメージが強くて、愚かにもずっと幸せな国だと思い込んでいました。
1980年代、福祉切り捨てや民営化などの新自由主義的路線に転じたサッチャー政権、そう言えば。「鉄の女」と呼ばれていましたよね。
1990年代には「第三の道」を提唱したブレアの労働党政権が期待されましたが、失望に終わり、2010年から保守党が進めてきた緊縮財政によって、貧困層にしわ寄せが強まり、社会の分断が進んでいるようです。
そして、2020年1月31日にEUを離脱したイギリス。
EU離脱を巡っても大混乱し続けていて、今後一体どうなって行くのかと他国ながら心配していました。
イギリスでは保護者が学校を選ぶことができる
イギリスでは、学校監査機関からの報告書や全国一斉学力検査結果、生徒数と教員数の比率、生徒一人あたり予算など詳細な情報を公開することが義務付けられていて、それを基に学校ランキングが公開されているというのですよ!
人気の高い学校には応募者が殺到するので、定員を超えた場合、地方自治体が学校の校門からじどの自宅までの距離を測定し、近い順に受け入れるというルールになっているそうです。
そんなことをしたら当然、良い学校の地区の住宅価格は高騰し、富者と貧者の棲み分けが進みます。
「ソーシャル・アパルトヘイト」と呼ばれて社会問題になっていると言いますが、それは当然の結果ですよね。
(ソーシャル・アパルトヘイト=格差が子どもたちの発達に差を生んでおり、加えて、裕福な子と貧しい子が分離され触れ合うことがなく暮らす状態)
みかこさんたち家族が住んでいるのは、一般的に「荒れている地域」と呼ばれているところで、近所の学校はランキング底辺です。
でも、息子さんは旦那さんの親族が敬虔なカトリック一族であったため、小学校はカトリックの宗教校に通っていたのでした。
なぜ、元底辺中学校へ?
みかこさんが息子さんと一緒に見学にいった中学校は、「元」底辺中学校です。
「元」というのは、今は随分ランクが上がってきたからです。
音楽やダンスなど、子供たちがしたがることができる環境を整えて、思い切りさせる方針に切り替えたら、なぜか学業の成績まで上がってきたというのです。
先生たちもフレンドリーで、みんなが楽しそうなんだそうです。
「学校の中で、自分が楽しいと思うことをやれるから、子供たちが学校の外で悪さをしなくなったんだろうね」というみかこさんの考えが息子さんに大きな影響を与えたとも言えるようです。
でも、イギリス人である旦那さんは猛反対でした。
生徒の9割以上が白人のイギリス人ということから、ハーフである息子が顔が東洋人であることからいじめられると心配下からです。
イギリスの中学校は、11歳から16歳まで5年間です。
最上級生と最下級生の年齢差も大きいので、体が小さい息子さんが肉体的にもいじめられる可能性が大いにあると考えるのは普通です。
小学校で通っていたカトリックの学校では、南米・アフリカ系・フィリピン・欧州大陸からのカトリックの移民か子供を通わせているので、人種の多様性があるようです。
その移民たちは、「チャヴ」と呼ばれる白人労働者階級が多く居住する地域の学校に子供を通わせないという風潮もあるのだそうです。
人種の多様性があるのが、優秀でリッチな学校ということになってしまっているようなのです。
それでも、結局、息子さんが「元底辺中学校」へ行くことになったのは、仲のいい友達がその中学校へ入学することになったからでした。
その友達の家庭は、母親がフルタイムの仕事に就くことになり、息子を遠くの学校へ車で送迎できなくなって、歩いて通える中学校に入学させることになったのです。
みかこさんの家もみかこさんが車の運転をしないので、息子さんはバスで遠くの学校まで通わなければならないから、近くの学校が良いということになったのでした。
息子さんの順応性
息子さんが友達との関係でいろいろ学び、成長していく様子が読んでいてとてもためになります。
子供って順応性があって、自ら学んでいくんだなと感心するばかりです。
その中でも、特に印象的な言葉を紹介します。
息子さんの中学校の教科に「ライフ・スキル教育」というのがあるそうです。
その期末試験の問題が「エンパシーとは何か?」
息子さんは、「自分で誰かの靴を履いてみること」と答えて満点だったそうです。
empathyは、日本語では「共感」「感情移入」「自己移入」と訳される言葉ですが、みかこさんがすこぶる的確な表現だと褒めるくらい、確かにうまく言い当てていると思えます。
EU離脱やテロリズムの問題や世界中で起きているいろんな混乱を僕らが乗り越えていくには、自分とは違う立場の人々や、自分と違う意見を持つ人々の気持ちを想像してみることが大事。
これからは他人の靴を履いてみる「エンパシーの時代」と息子さんは習ったそうです。
シンパシー(sympathy)=「感情や行為の理解」に対して、エンパシー(empathy)=「他人の感情や経験などを理解する能力」なのです。
EU離脱派と残留派、移民と英国人、様々なレイヤー(層)の移民どうし、階級の上下、貧富の差、高齢者と若年層などのありとあらゆる分断と対立が深刻化しているイギリスで、11歳の子どもたちがエンパシーについて学んでいる、本当にすごい現実です。
さいごに
イギリスは元々階級社会であるということが当たり前の事実として描かれていて、そのこと自体を「そんな不平等なことが許されるのだろうか」なんて考えてしまっていた自分がいます。
人種差別もしてはいけないことときれいごととして思い込んでもいます。
でも、社会の中で階級も差別も「存在するもの」として認めざるを得ない世界・・・それが今のイギリスなのだとしたら、辛いですよね。
そして、それはイギリスだけじゃなく、日本以外の多くの国で当たり前のように「存在しているもの」なのでしょうか。
そんなことを全然知らずに過ごしてきた私は、お気楽な幸せ者と言えるのかもしれません。
どんな中にいても自分を失うことなく、たくましく生きているみかこファミリーの今後に目が離せないので、また続きが出たらぜひ読みたいと思います。
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