脳科学者 中野信子さんの『人は、なぜ他人を許せないのか?』という本を読みました。
恐ろしいことに人間の脳は、他人に正義の制裁を加えることに悦びを感じるようにできているのだそうです。
この快楽に溺れてしまうと、決して他人を許せない「正義中毒」になってしまうというのです。
実際、脳から快楽物質ドーパミンが出てくるのです。
しかも、それはすべての人に当てはまるというのですよ。
「他人のことに口出しして、文句ばっかり言う攻撃的な人は嫌い」って思っている私も同じ?とショックを受けました。
「自分は絶対正しい」「他人の言動が許せない」と思っているつもりはないけど、でも自分の中にもその要素があるのなら気をつけなければ・・と思います。
いったいどういうことなのか、説明しますね。
他人に「正義の制裁」を加えると、ドーパミンが出る
人間の脳は、裏切り者や社会のルールから外れた人という、わかりやすい攻撃対象を見つけ、罰することに快感を覚えるようにできているのだそうです。
「恋人や配偶者が浮気をしていた」
「上司からパワハラやセクハラを受けた」
「信頼していた友達から裏切られた」
「清純な優等生キャラで売れていた女性タレントが不倫をしていた」
「飲食店のアルバイト店員が悪ふざけの動画をSNSに投稿した」
「大手企業がCMで差別的な表現をした」
こんな時、他人に「正義の制裁」を加えると、脳の快楽中枢が刺激され、快楽物質であるドーパミンが放出されるのです。
「間違ったことが許せない」
「間違っている人を、徹底的に罰しなければならない」
「私は正しく、相手が間違っているのだから、どんなひどい言葉をぶつけても構わない」
自分自身が攻撃しなくても、正義中毒者たちのターゲットになってしまうこともあるかもしれません。
実際、一般人でも、何気ない発言や写真が「不謹慎」「間違っている」と叩かれることもあります。
そうされて傷ついた経験がある人もいると思います。
普段は常識的で穏やかなのに、ある話題、ある状況になると豹変してしまう人もいます。
歴史認識の問題やスポーツを応援する場合などでもありがちです。
そう言われると、私は地元石川県の高校が野球やサッカーで勝ち上がっていくとワクワクして、相手校が反則でもしようものなら、かなり攻撃的になる傾向を認めます・・・。
人の脳は対立するようにできている
そもそも人間の脳は、誰かと対立することが自然で、対立するようにできているのだそうです。
哺乳類のうち、かなりの種が、個体としての脆弱性をカバーするために、集団を形成しています。
特にヒトはその傾向が顕著で、集団主義を取りやすくなります。
そして、別々の集団は、互いに対立しやすくなっていきます。
集団主義とは「自己の所属している集団が集団であり続けることこそが正義」というものです。
そこでは、集団への所属と所属した集団の持続そのものが最優先の目的です。
人は、本来、自分の所属している集団以外を受け入れられず、攻撃するようにできているのです。
そして、自分たちの正義の基準にそぐわない人を、正義を壊す「悪人」として叩く行為に快感が生まれるようになっているのです。
日本社会の特殊性
日本人は社会性が高く、自分の意見を呑み込むようにしがちです。
それは、島国だからと説明されることが多いですが、同じ島国でもイギリスなどは自分の意見をしっかり主張する人が多いです。
日本人の社会性については、島国だからだけでなく、気候面や自然災害の多さからも特徴付けることができます。
まず、降水量が多く、台風もきます。
また、プレートの境界にあるため、火山が多く、地震が発生する場所です。
自然災害のリスクが高く、恒常的に防災を考えなければならない国なので、環境に適応できる、長期的な予測をして準備を怠らない人たちが生き残ったというように考えられます。
そんな中では、個人主義よりも集団主義が強くなりやすいのです。
だから日本においては、集団のルールに逆らうことが難しいのですね。
学校では、「破壊的な天才児」より「従順な優等生」が優遇されます。
でも、集団を破壊する存在として天才的な子どもが排除されるのは、大きな損失です。
大人社会でも、まわりと違うことを主張する人が潰されそうになることが多いです。
まわりと違う人を責めることでドーパミンを出して悦びを感じてしまうという特性があるからというのは、どうにかならないものでしょうか。
どうしたら、自分は「正義中毒」にならないようにできるか
「人を許せない」状態になるのは、脳の特性であり、誰もが陥る可能性があるならば、どうしたらそれを避けることができるか、知っておかなければなりません。
もし「昔はよかった」という気分に頻繁に浸ることがあったら注意が必要です。
昔を懐かしむ行為は、脳の前頭前野が老化しているサインなんだそうです。
老化によって、前頭前野の働きが衰えると、新しいものを受け入れにくくなります。
「人を許せない」というのも「許す」ための大きな足がかりである前頭前野が萎縮してしまうために起こるのです。
脳は30歳から老化し始めるそうです。
加齢による前頭前野の萎縮・・・残念ですが、年齢を重ねるとともに頑固になっていく人たちは、そういうことだったのですね。
そこで重要なのが、脳科学者が教えてくれる「老けない脳を作るトレーニング」です。
・慣れていることをやめて、新しい体験をする
・良質な食事や良い生活習慣で前頭前野を鍛える
・対立でなく、並列で考える
具体的な方法は本の中で説明されています。
前頭前野が老化し萎縮すると、どうしても自分の考えが正しいと思い込みがちになるので、老化させないようにしないといけません。
さいごに
最終的に私がたどり着いたのは、自分にも他人にも「一貫性」を求めないのが良いということです。
親しくなったばかりの頃は、同じ考えを共有していると思っていたのに、意見や考え方の違いが見えてきたら、可愛さ余って憎さ百倍というくらい「許せない」気持ちが増幅して、強い口調で攻撃し始めてしまいます。
そもそも他者、そして自分自身にも一貫性を求めること自体、不可能なことなのです。
人間である以上、言動に矛盾があるのは当たり前、過去の発言や振る舞いを覆してしまってもしょうがないのです。
怒ってばかりいたら疲れます。
怒っている人の近くにいる人も疲れます。
SNSで匿名での攻撃も、ニュースのコメント欄に文句ばっかり並んでいるのを目にすることもすごく嫌です。
そんなストレスが少しでもなくなるように、脳科学は進化しているのだと思います。
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